文久三年【冬之弐】

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    「でも、まだ病み上がり臥していても不思議じゃないはずでしょ?」 藤堂平助が室内に顔を覗かせた 「そうだよ師匠…今、目が覚めたばかりなんだ野口は危険な場所にいる訳じゃないならもう少し休めよ」 早阪透は気付いた様に近くにあった羽織を引き寄せ本庄祿の肩に掛ける 「時間は無い……透、透は私を待っていてくれてる間どんな気持ちだった?」 早阪透の手をそっと握り悲しそうな顔で本庄祿は問い掛ける 「そ、そんなん……辛かったよ、すげぇ長くて苛ついた」 早阪透は恥ずかしそうに口籠もる 「野口殿は今待ってるんだ…あの人の胸にはちゃんと誠がある、透は分かるだろう?…藤堂さん、私は十分すぎる程休みました、お陰で少し寝坊したみたいです、出掛ける準備をします」 本庄祿はきっぱりと言い静かに立ち上がる 「本庄、せめて一度診察を受けてからにしろ」 土方歳三は渋面をこれでもかと歪ませる 「……受けた所で変わりはしません、すみませんが食事だけしていきます、腹が減っては何とやらですからね」 破顔する本庄祿に沖田総司は部屋を駆け出し勝手へ向かう 「なぁ本庄、俺を連れて行ってくれねぇか…」 「水戸の一見識を甘く見ちゃいけません…一葉を見抜いた烈公徳川斎昭…彼は天下の秋を知っている、私は新撰組として水戸へ行くのではありません本庄家として行くのです……土方さん申し訳ありませんがお連れ出来ません」 本庄祿はゆっくりと顔を背けた 徳川斎昭の息子慶善は一橋家より出る次期十五代将軍 下手に新撰組の名前を出して彼等の不況を買う事はしたくなかった
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