文久三年【冬之弐】

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    「透、お前を連れて行く、私の荷物から演舞用に持っていた羽織袴を準備して欲しい、透も着替えろ、この隊内で何方か下がり藤の紋付きを持ってる方はいませんか?」 早阪透は躊躇いながらも口答えする事無く準備を始める 「下がり藤!?そんな、藤紋持ってる奴ぁ……」 問い掛けた本庄祿に土方歳三はいないと口を開き掛けゆっくりと横を向いた 「……いた」 数々の視線は藤堂平助に注がれていた 家紋とは名字に由来する事が多いが、近藤派新撰組は元々性を持たない百姓の出の為、家紋も藤原氏の藤紋を使う者はいない 土方歳三の左三つ巴は有名な話だが、彼の祖を遡れば列記とした武士の家柄なのだ そんな中に居た藤堂の御落胤 「俺!?俺は下がり藤じゃなくて蔦だよ」 「馬鹿、平助じゃない近藤さんだ」 皆が藤堂平助を見る中、土方歳三だけは藤堂平助の隣に居た近藤勇を見ていた 「局長?だって局長はいつも丸に三つ引きじゃないですか」 武田観柳斎は首を傾げる 「近藤さんは藤原の定紋を持っている、それが下がり藤だったはずだ…そうだよな近藤さん」 今度は近藤勇に視線が集中する 「いや…その……確かに紋自体はあるんだが羽織は持っていないんだ、着物だけならある……何分、先代も使っていなかったからなぁ」 近藤勇は困った顔で腕を組む 確かに困る、着物があっても羽織が無いと困る 「透…」 「え?なに?」 本庄祿は困り丁度、龍爪の御紋が入った羽織と着物を掛けていた早阪透を呼んだ 「お前が龍爪の紋付きを着ろ」
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