文久三年【冬之弐】

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    「それじゃぁ本庄君、君が!!」 「危ない?」 山南敬助の言葉を遮ります本庄祿は試す様に笑みを浮かべた 「……そうだ、水戸徳川と言えば尊王攘夷の大根源と言っても過言じゃない!!今、京をうろつく過激派だって水戸学の教えの賜物じゃないか!!」 確かに山南敬助の言い分は正しかった 「じゃぁ今回が良い試行じゃないですか、徳川宗家に対し御三家最弱と言われた水戸徳川家がどれだけ反骨精神を燃やしているか…見ておく良い機会です」 まるで最初からそれが目当てかの様に話す本庄祿に誰も何も言えなくなった 未知を知る者が何を思い何を信じ何をしたいのか 彼等の推し測る範疇を超えていた 「師匠、水戸徳川家って日本でも有名なんだろ?だからこんな大事な羽織袴で行くんだろ?師匠がそうしろって言うなら俺は従うけど師匠は大丈夫なのか?」 早阪透は布団の上で胡坐をかいたまま立っている本庄祿を見上げた 「お前が心配するような事は何もないよ、別に話し合いに行く上での体裁の問題を話しているだけだ、透はただ黙って座っていればそれでいい」 「そっか」 にこりと場違いな程に朗らかな笑みを見せた本庄祿に早阪透は物分かりの良い返事をした 事実、早阪透は本庄祿の言わんとしている事をきちんと理解した上で返事をしたのだ 刀は抜かない 闘争は無い あくまでも話し合いのみで野口健司を必ず連れ帰る 早阪透は黙ってそれを見届けなければならない責任がある 本庄祿の真意は早阪透に伝わっている
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