文久三年【冬之弐】

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    「本庄君、何故…多摩を」 山南敬助は今までに無い程に眉間に皺を寄せた 心情は読むに容易く 気味が悪い 「全て記録に遺されているんですよ、皆さんの生涯…勿論、私は全ては知りません、ほんの一部始終だけです……土方さん来てくれますね?」 「分かった」 土方歳三は何も聞かず、ただ一言返した 夜になると、近藤勇から山崎烝へ命が下り水戸同行が決定した 特に用意するものも無いので本庄祿は早阪透と二人で縁側に座っていた 「寒月、綺麗だと思うか?」 本庄祿は不意に早阪透を振り返ると早阪透と目が合った 「別に…そこまで好きじゃねぇ…ってか……ごめん」 「何が?」 「野口…」 「私には関係無い」 「え?」 俯いた早阪透は耳を疑った 「野口殿と透の間に何があったかなんて私の預かり知らない事だ、透が野口殿に何を言って何をしたのか何て私には関係無いよ…ただ、あの人は何も言わずに私の前から消えた、去るも留まるもあの人次第だった筈だ…何を想い此処を去ったのか私は知りたい…眠っている間にね夢を見たんだ」 縁側に座る本庄祿は小さな子供の様に足を振って自分の揺れる爪先を目で追っていた 「夢?」 「うん、夢…たぶん夢」
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