平成十一年【春】

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      《祿…今日からお前が師範だ、この道場を守るんだぞ?お前なら出来る…》 《爺ちゃん…》 《不抜けた面するな…お前は俺の一番弟子、俺の立派な孫娘…胸を張れ》 《…はい》 《いい子だ…笑ってくれ祿、お前の笑顔を見て眠りたい》 《ありがとうございます師匠……ありがとう爺ちゃん…おやすみなさい》 《あぁ、おやすみ祿…また、俺の可愛い孫娘として生まれてきてくれ……そしたらまた剣術教えてやるからな》 《はい!!》 「…く、…ん ろ…さん?ろく…さん」 「ん…あ、婆ちゃん」 「やっと起きましたか?祿さんお稽古の時間ですよ」 少し前の夢を見ていた 爺ちゃんが亡くなる日の夢。 あれから一年が過ぎて私は十二歳になった。 両親は私が生まれてすぐに事故で死んだ、顔は実際見ていないけど私が生まれた日に三人で撮った写真を持ち歩いている。 爺ちゃんは村で道場をしていて、その村で六歳になると道場に入れるのが当たり前みたいになっていた。 勿論、六歳になる前に入れる親もいたし、子供達も嫌がる素振りは無く楽しんでいる様だった。 私は十一歳の時に爺ちゃんから道場を預かった。 子供が子供の面倒なんて見れる訳無いし生徒には私より十歳も歳上の人だっていたのに… 誰一人、私が師範を継ぐ事を反対する村人はいなかった。 小さな村で両親のいない私を村人全員が親代わりに私を支えてくれた。 だから、出来る限りの事は責任持ってやるし、爺ちゃんだって信じてくれているのだ絶対に諦めたりもしない。 今日は水曜日だから高校生の日だ。 道着に着替えて下駄で少し離れた道場へ向かう。
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