文久三年【冬之弐】

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    「だって本当の事だろ!!」 「まだ口答えするのはこの口か?え?」 「いだだだだっ!!!!」 反論を許さない様に本庄祿は早阪透の頬を思い切りつねると直ぐに放し立ち上がり正面に立つ 右手を伸ばし早阪透の頭を引き寄せた 「馬鹿だね、謝るのは私だよ…ごめん、辛い思いばかりさせたね、傍に居てあげられなかった、透の声を聞いてあげられなかった……勝手な事ばかりして傷付けてごめんね、透…」 本庄祿の背中に回された手はもう解けなくてもいいと思える程に強く、小さな嗚咽は胸を伝い直接響く 「野口殿がね、言ってたんだ振り下ろされる刀は本物だって…気を付けろって夢の中で言ってた、それで、あと、ありがとうって言ってくれた……だからきっと夢なんだ、あの人が私にありがとうなんて、似合わない…ねぇ透、野口健司ってそんなに悪い人じゃないんだ……一緒に助けて」 胸に抱いた早阪透の頭が二、三度縦に小さく振られた 「史実ではね、野口健司と言う人間は十二月二十七日に切腹させられて死んでしまうんだ…」 本庄祿の言葉に早阪透は顔を上げた ポタリと涙に濡れた頬に雫が落ちる 「透、あの人は優しいんだ…本当に優しいんだ…私と透の恩人なんだ………歴史を壊してでも野口殿を死なせたく無いよ」
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