文久三年【冬之弐】

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    「ははっ……っ意味、分からないです……ははは…そんなの、聞いて無いです…知りません」 本庄祿は腰を屈めて高欄に額を付けると乾いた笑いを漏らした 「んな事俺が知るかよ、お前の方がよっぽと野口を知ってんだろ」 つっけんどんな口調で土方歳三は大きくため息を吐き出す 「知りませんよ……こんな事知りません!!知りたくも無い!!……土方さんなんて嫌いです、大嫌いだ………最初から殺す気なんて無いのにこんな話を聞かせるなんてあんまりだ…立ち止まってる暇なんて無いのに、只でさえ急いでいるのにこれ以上私を急かして土方さんは一体私をどうしたいんですか……」 本庄祿の半ば怒りに近い感情はどうしようもなく溢れる野口健司への感謝と後悔の現れだった 「俺の知ったこっちゃねぇよ、お前ぇが勝手に急いてるだけだろぉが」 鼻を鳴らして振り返ると中庭を背に高欄に寄りかかる土方歳三 「土方さんは鬼なんかじゃない…天邪鬼だ、いけず…人でなし…臍曲り…」 高欄に顎を乗せて見上げる様に睨む本庄祿は悪態を吐く 「てめえ今なんつった?」 「おや、聞こえませんでしたか?地獄耳は御不在の様で?」 右頬を痙攣させる土方歳三にがっちりと頭を掴まれるが怯む事無く強かな笑みを浮かべる本庄祿 「…ちっ!!こんな糞餓鬼の相手なんてしてられっか!!俺ぁ寝る!!」 無造作に掴む手を放すと土方歳三は部屋へ入っていった 「…本当に見事な性格してるよ、糞餓鬼だって?私は二十二だっての!!………誰だよ、新撰組を人斬り集団なんて言ったの…誰だよ、鬼の副長なんて言ったの……あんな人が鬼なら地獄なんて地獄と書いて極楽と呼べるじゃないか……歴史なんて何の宛てにもならない」
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