文久三年【冬之弐】

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    早阪透の耳に届くゆっくりとした一定のリズムは様々な不安から解放された心を安心させる 本庄祿は背中に伝わる呼吸に早阪透が眠ってしまった事に気付き少し笑みが零れた 「普通、人を抱えたまま寝る?」 小さく呟く声に早阪透を起こす気は無く、静かに固く握られた腕を解いた 掛け布団だけを用意して自分の膝枕に早阪透を寝かせて掛けてやると本庄祿は大きく息を吐いた 気丈に振る舞っても不安に襲われる、今現在野口健司が生きている保証はどこにもない たとえ、生きていたとしても明日生きているとは言えない 現に新見も芹沢も平山もひと月早く死んだ 平間に至っては天寿を全うしたと言われる史実すら存在したのに、芹沢と共に早世した 何が起きるか分からない 史実に野口健司の脱走は一切無い、前川邸の表通りに面した格子出窓のある部屋で切腹したと記録されていた なのに、野口健司は新撰組を脱した 予測不可能な事態は先が読めない いくら急いても時間は延びもしなければ縮まりもしない でも、何故か本庄祿には分かる 野口健司は必ず水戸にいて自分を待っていると そして、絶対に京にも本庄祿の元にも戻らないと言い張るだろうと 更に付け足せば、何が何でも是が非でも本庄祿は野口健司を連れて帰る他は考えていない
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