文久三年【冬之弐】

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    翌朝、旅籠かめやを後にし美濃へ入る 翌々考えれば近江のかめやといえば美濃の両国屋と隣り合わせていて歌川広重の浮世絵寝物語や松尾芭蕉で有名だったなどと本庄祿は馬を走らせぼんやり考えた 美濃尾張から三河、遠江、駿河、相模、武蔵、下総へと向かい太平洋側、東海道を通って常陸水戸へ向かう 普通に歩けば一ヵ月以上掛かるが幸い江戸時代の早馬はかなり鍛えられていてちょっとやそっとの峠じゃへこたれない たった半日で近江と三河の真ん中、尾張に着いた この調子なら今夜には三河に着けそうだった 本庄祿は極力尾張を早く抜けたかった 街道の途中にある茶屋で小休止を取ると本庄祿は立ち上がった 「透、尾張を抜けるまで家紋を出来るだけ隠しておけ、土方さん、すみませんがもう出ましょう…」 「どうしたの?師匠」 「誰か居るのか?」 当然ながら険しい表情の本庄祿に早阪透も土方歳三も意識を張り巡らせる 「今は居ません、ただ何が起きてもおかしくない出ましょう早めに」 付かず離れずと距離を保っていた山崎烝は本庄祿が立ち上がったのを合図に馬に乗り先に出た 尾張藩…徳川幕府始まりの地にして織田豊臣終端の地 古い体制が残るこの地には未だ織田豊臣の名残がある 徳川幕府に一掃された織田豊臣に仕えた者達もまだ存在している 同じ君主に仕えていながら天下を取り、組んでいた同盟をも切り捨てた徳川を憎む者は少なくない そんな中、敵対し幾度と無く戦を交わしながらその玉座を争った名立たる名将戦神と呼ばれた上杉家に仕えた本庄家、古くは桓武平氏で家紋も丸に揚羽蝶を持ち党系に枝分けされる程に巨大な一族だったにも関わらず蝶を捨て龍紋を掲げたのだ、知っている者は見れば龍爪が何を意味するか分かる 徳川への寝返り
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