文久三年【冬之弐】

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    「なら、この紋を知っての事と見なすが相違ないな?」 本庄祿は低い声で男達を睨む 「龍爪の紋、越後本庄が何故この尾張にいる」 「あんた等には関係の無い話だ、義宜の邪魔をしたくなくば退け」 徳川義宜、尾張藩十六代藩主…公武合体を教え込まれた穏健派僅か六歳の幼き君主 「義宜様は慶勝様の操り駒だ、あの御方に御意志など無い」 「それでも建てるのがあんた等の仕事じゃない訳?私と同じだろ?それとも私達が本気だとでも?」 確信に触れない話に土方歳三も早阪透も訳が分からない 「本庄貴様まさか…」 「深読みは善くない、はっきり言っておくが水戸だろうが尾張だろうが紀州だろうが徳川は徳川だ、それ以上でもそれ以下でも無い、私達はそれを分かっていながらに龍爪を掲げてる…勘違いするな……それが分からない程あんたもまだ堕ちて無い筈だ卍の須賀家…」 須賀…蜂須賀の大元の名、豊臣家に仕えた重臣、徳川に鞍替えする事すら拒んだ忠誠心の強い一族だった 徳川家に戦等で兵を挙げる度に戦勝を納めその功績を讃えてきたにも関わらず、亡き豊臣家を忘れる事が出来なかったのだ 「何故!?」 「身なりが上等、尾張で卍の家紋を着けて本庄に楯突くなんて豊臣家を敬愛する須賀家と考えるのが妥当だ」 家紋の入ってない着物を来ている男達は狼狽えるが真っ直ぐ本庄祿は僅かに出た短刀の柄を指差す 「邪魔立てするな、その名は讃えられるべき名だ、こんな所で血に塗れていい訳がない」 本庄祿は男達に背を向けると土方歳三と早阪透に馬に乗る様促す
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