文久三年【冬之弐】

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    あれから一週間 何とか早い段階で武蔵に着く事ができ、武州に着くと土方歳三は少し道を外れ 「俺ぁ此処で別れる、七日したら又此処で落ち合う、お前等が来ないまま十日を過ぎたら俺ぁ一人で京に戻る…これでいいんだな?」 京を出る時に決めていた事を確認した 「はい、大阪の方にも同じ様に伝えてありますので」 本庄祿の言う大阪とは山崎烝の事である これから更に速度を上げて常陸水戸藩を目指す 「分かった、気を付けろよ」 「はい…では七日後に又」 短い言葉を交わして本庄祿と早阪透は武州を離れた 武蔵にいる間は本庄祿が紋付きを着ていたが常陸に入る時に又早阪透に着せるつもりだった 武蔵は御天領と言われている、直訳すれば将軍の土地、御庭…だから本庄祿が何を心配する必要もない 本庄祿がこの武蔵と言う名の庭の庭番なのだから 平成の世界で家紋とは然程知れ渡った物では無い 冠婚葬祭に用いる程度で下手をすれば我が家の家紋を知らぬ人間だって普通にいる 本庄祿も家紋で家を判断出来る事にも限界がある 平成の時代まで剣術、又は政界や財界、貴族扱いや皇室との関わりを持つ者でなければ分からない 僅か十五歳でその左腕を認められ人間国宝に指定され、改めて中条の名を蘇らせ天皇の勅旨によって演舞の抜刀を許されていた、その時のみ中条家の家紋を付け隔てた言い方だが上流階級の人間の前で舞う 見ている側も家紋を付けている事が多かったので自然と覚えてしまったのだ
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