文久三年【冬之参】

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    そう言って俯く師匠は耳まで真っ赤だった 「それだけ?」 俺が泣き止んで笑った…ただそれだけの理由が今の今まで続くきっかけになったなんて、正直驚いたけど嘘じゃないのは分かる 「ガキ扱いとかそういうつもりじゃないんだ、でも癖って言うか、爺ちゃんが私にそうしてくれたから他にどうしたらいいか分かんない…思いつかなかった」 モゴモゴと弁解を必死に探す師匠の体温がどんどん上がる 確かに師匠はあんまり剣術に関して怒る事も無かったけど褒めたりもしなかった、厳しいには厳しいし剣術を外れても師匠は感情的にはならなかった 俺の事、散々不器用だの無愛想だのって言ってたけどよっぽど師匠の方が不器用で無愛想だ 村の外にはあまり出たがらなかったし学校の友達だっていたかどうか分からない、俺の知る限りではいないはずだ だって、俺や幸人達は毎日師匠と一緒にいたから 今なら師匠がなんで村から出たがらなかったのか、毎日俺達といたのか分かるし、頭を撫でる以外分かんないって言ったのも分かる 無いからだ 師匠には無いんだ 自分を褒めてくれた手が 頭を撫でて貰う以外に無かった事 師匠に遺された時間が無かった事 師匠の人生の限られた世界の中に俺達は選ばれた 嬉しいのに 本当に嬉しいのに 哀しくて堪らない 「師匠、俺本当は師匠に頭撫でられんのすげぇ好きだよ」 誰か、頼むから誰でもいい 師匠の心臓を治して下さい 俺から、この優しい人の手を取らないで
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