文久三年【冬之参】

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    速度を緩めて水戸の町に近付く中、俺はどうしても気になっていた事を聞いた 「師匠、水戸が嫌いなの?」 「嫌いじゃないよ」 即答された 大嫌いなんだ、水戸 「師匠、新撰組にずっといるつもりか?」 「……何故?」 戸惑いが見え隠れしながら質問を返された 分かってる癖に 「新撰組の歴史が分からない程、俺は馬鹿じゃないよ」 「言いたい事ははっきり言え」 師匠の機嫌、又悪くなった 「新撰組は敗けるから、幕府は消えるから…皆死ぬから」 師匠はピタリと馬を停めた 引っ叩かれるかな 「透、新撰組の隊士が嫌いか?」 「好きだよ、でも…」 「なら、その気持ちを大切にしろ…私が守ってやるから、一度手にしたなら絶対手放すな」 師匠は振り返らなかった 「新撰組は好きだよ、でも…このままじゃ師匠」 「未来は変わる」 「変わるって…でも、後二、三年で皆死ぬんだろ…沖田さんだって咳してた、近藤さんだって幕府のお偉いさん達と逢ってる、土方さんも法度書を作った、もうすぐ江戸から伊東とか言う奴が来て藤堂さんを連れてっちゃう……皆いなくなる、それに師匠だって……俺は、国とかそんなん分かんねぇよ、だけど師匠がいなくなるなんて嫌だ…十年先、俺の隣に師匠がいないかもしれない、でも明日はちゃんと居てくれよ!!明後日も明明後日もその次もその又次も!!新撰組に居たら師匠の明日がどんどん少なくなる…俺嫌だよ、一日でも一時間でも一瞬だっていい…師匠と居たいよ」 馬鹿だ、こんな言葉に何の意味も無い これじゃ新撰組を棄てろって言ってる様なもんだ 師匠は絶対そんな事許さないし怒るに決まってる 「なら、新撰組を棄てて水戸に行くか?」
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