文久三年【冬之参】

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    城の中は電気も無い時代なのにそこらじゅうにかなり高価そうな行灯が置かれて明るい 俺は見た目、六十近い爺さんの後ろに着いて階段を上り奥へと進む 師匠はいつも俺が立つ右斜め後ろにいて何だか本当にいつもと全てが逆で変な感じがした 廊下の突き当たりに一際綺麗ででかい襖が現れ爺さんは入り口右端から垂れ下がった紐を軽く引くと カランカラン 襖の向こうで神社にある鈴に似た音が鳴るとスッと襖は左右に開かれ爺さんは右手を襖の奥に向け入れと促す 襖の向こうはまだ廊下が続いているが床板ではなく畳が敷き詰められ、この先に慶篤と呼ばれる人間がいる事が分かった 畳の先に見える次の襖の前に小さな子供が正座をして右手に飾り刀のような不恰好な程に長い刀を立てて持ち、子供の正面まで来ると カシャン!! 突然刀を横にして左手で受け止め両手で水平に持つと立ち上がり左右に開いた襖の奥に進む 更に二枚の襖を越えると部屋の空気は突然変わった 目の前の襖が最後の一枚 開かれたその先に居たのは 「お初お目に掛かる、越後桑名藩より本庄祿と申す」 一段高い位置に座る男は二十代後半位の少し目の吊った色白の優男だった 「遠方遥々ご足労頂き御礼申し上げる」 低く柔らかい印象を与えるその声に何故か神経を逆撫でされた
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