文久三年【冬之参】

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    「…貴様、口の訊き方には気を付けるんだな」 徳川慶篤が鋭い視線で師匠を射抜いた 「誰に向かって口を訊いている…私は貴様に使えてるのではない我が主人は本庄様お一人、徳川如きが付け上がるな」 俺は危うく師匠を振り返りそうになった 完璧に喧嘩する気満々じゃねぇか ヤバいんじゃないのか? 「徳川如きだと?そうか、本庄家はお役を頂いていながらにして主人は別にあると言われるのだな?それとも将軍気取りか?」 師匠を見ていた徳川慶篤は不意に俺を見た 「今更何を申される、その様な事百も承知で本庄家を鎖で繋いでおきながらよくもぬけぬけと……あぁ、それとも水戸は御三家ではあられないから何もご存知ありませんか?」 師匠は何もの部分をやたら強調して話す 「何だと?では、何があると言うのか!!」 激昂した徳川慶篤は懐の扇子を俺達に向けた瞬間 パァン!! 乾いた音が響き扇子は徳川慶篤の手からかなり離れた部屋の右端に落ちた バタバタッ!! 音を聞き付け何人もの侍が部屋に入って着て刀に手を掛けた 師匠は大丈夫だと言った だから俺はジッと黙って座っていなければいけない 爪が禿げそうになるまで膝を握りしめて耐える 「徳川慶篤、本庄様に差し向けるとは何たる態度、次…其処に堕ちるのは貴様の首と思え…」 師匠は徳川慶篤の正面に屈むと手を真っ直ぐにその喉元に据えた 「子狗と馬鹿にすると痛い目に遇うぞ」 師匠が払い棄てた徳川慶篤の扇子は真ん中にひびが入り歪んでいた
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