文久三年【冬之参】

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    「帰れ」 「帰りません」 きっと野口は怒鳴りたいんだ、でも徳川慶篤の目の前だから話しだけで何とかしようとしている 俺は野口の事はよく分からない、でも、野口は師匠の為なら何だってする奴だと俺は思ってる…じゃなきゃ水戸に戻ったりなんてしない だけど、師匠も同じだ 野口を連れて帰る以外は考えてないし絶対に有り得ない 「徳川様の御前だ、退け」 「そんなもの関係ありません、私達は貴方に逢う為に此処へ着たんです」 「冗談は止せ、私はもう水戸藩士だ新撰組ではない、戻ればどうなるかも分からん程馬鹿でもない」 「私は認めていませんし、新撰組を抜ける程度には馬鹿です貴方は」 ズサッ パァン!!!! 「野口!!!!!!」 静かな言い合いが突然途切れて畳の摺れる音がして流石に俺は手が出てしまった 野口は勢いよく立ち上がると片手で師匠の胸ぐらを掴んで引き摺り上げた 俺は咄嗟に後ろから師匠の体に腕を回して右手で野口の平手を受け止めた 野口の名前を叫んだのは徳川慶篤 野口は師匠の左腕が動かない事を当然知っている なのに、右手を振り上げやがった 「私は帰らない」 「何故、何も話して下さらないのですか…もう私では貴方の役に立てませんか?私に守られる事が安心できませんか?」 師匠の声は泣いていた 俺の所為だ 野口が師匠を泣かせたんじゃない 俺が師匠を泣かせたんだ
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