文久三年【冬之参】

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    「馬鹿な…」 徳川慶篤の目は全く師匠を受け入れてない 「馬鹿はあんただ、家茂の方がよっぽど物分かりの良い利巧な人間だ」 師匠は左腕が動かない分大きく羽織を翻して振り返る 俺は息を呑んで一歩下がった やっぱ、師匠は師匠だ でかすぎる 越えるなんてできない 細くて小さくて華奢な背中はいとも簡単に俺の視界を埋め尽くした 「貴様が本当にあの本庄だと言うのか?徳川幕府開闢時、日の本より選び抜いた十の武将、十本刀だと言うのか!!私は騙されんぞ!!貴様が本庄など…いや、中…」 ヒュン 軽い風を切る音がして徳川慶篤は声を失った 俺の腰に刺されていた大太刀は抜き取られ 鞘に納まったまま眉間に切っ先が据えられた 「分を弁えろ、貴様風情が口にしてよしと言った覚えは無い出しゃばるな」 まただ 師匠は俺に何かを隠してる 十本刀 中… 俺、本当は師匠の事何も知らないんじゃないのか? 「本庄、止めろ…お前が何者だとしても徳川公への無礼を私は許さん」 師匠の刀を握る右手に野口の手が重なる 「無礼なのはこの男です…貴方を“使う”等と言ったんです…私が何者であろうと関係ない、野口殿を駒にしか思ってない様な男を私は許せない」 徳川慶篤を睨む師匠を野口が睨む 「俺はあんたみたいな奴が一番嫌いだ」 俺は師匠の手に重なる野口の手を払った
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