文久三年【冬之参】

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    「殺されると分かっていながら、何故戻ったのですか」 俺は勢いよく野口を見ると丁度俯いた時だった 「お前の傍に居れないのなら何処も同じだと思った」 「…違います、私は生きている人間しか迎えに行けません、水戸に戻ればいずれ殺される、良くて何らかの罰を与えられた筈…死んだ人間を迎えには行けません……野口殿が生きていて下さるなら、私を覚えていて下さるなら私は何処へだってお迎えに上がります」 師匠はそれだけ言うと又歩きだして、近くの宿に入った すげぇピリピリしてて師匠は俺達を寄せ付けない 師匠が風呂に入っている間に俺は野口に言わなきゃいけない事を言った 「野口、さん……すいませんでした、俺、何も知らない癖に酷い事言ったし、こんな事になるまで追い詰めた…すいませんでした、そんで、師匠を守ってくれてありがとうございました」 俺が正座で頭を下げると野口は少し嫌そうな顔をした 「止めろ、この事はお前に関係無い私の独断だ、それにお前が私に言った事は正しい」 「正しい訳無ぇだろ…師匠が言ってた、夢の中であんたに言われたって振り下ろされる刀は現実だって…俺はそんな世界で生きてきた訳じゃ無ぇからよく分かんねぇけど、でも俺と同じ世界で生きてきた師匠があんたを信じたんだ、俺があんたを信じるのには十分すぎる理由だ、刀が全てじゃなくてもやっぱ必要なんだよこの世界には…でもやっぱ師匠に人を斬って欲しくない、人を殺す重みは痛い筈だから…あんただってそうなんだろ?だから全部自分の所為だって言ったんだろ?」 野口は眉間に皺を寄せた 「本庄は綺麗過ぎる、何もかもが潔く迷いが無い…だけど誰よりも死を知って理解している…せめて私が芹沢達の死を肩代り出来たならと、償いの意味だった…何らかの罰を受ければ、少しは償えると思った」 やっぱ、そうなんだ 野口は俺とそっくりで 師匠が大好きで大切なんだ
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