文久三年【冬之参】

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    「師匠はさ…ほら、見たまんまだけど、すげぇ強がりなんだよ……きっとあんたを待ってる、師匠、長風呂じゃないんだ」 俺は視線だけ廊下に向けた 本当は行かせたくなかったけど 今、師匠が求めてるのは俺じゃない事くらい分かる 野口は伏し目がちに廊下に視線を向けたけど立とうとしない 「…師匠、目が覚めた次の日には京を発ったんだ…相当体力使った筈だし、こんな時季に髪が濡れたままなんて絶対風邪引く」 俺が言い終わった瞬間野口は近くにあった羽織を引っ掴み部屋を飛び出した 「あ~ぁ、俺って何て優しいんだろ…」 詰まるところ師匠が善ければ俺は何だって良い 師匠はずっと元気が無かった、野口がいないと知った時の師匠の横顔が今も頭に焼き付いている あの日、俺の話を聞き永倉さんと沖田さんを見た師匠は唇を噛み締め泣くのを必死に堪えてた 俺は師匠の事、よく知ってる いつだって俺達を優先してくれた いつだって一番に味方でいてくれた 何があっても守ってくれた あの時、師匠は泣いてもよかったのに俺の所為で泣けなかった 俺がきっと自分を責めるって師匠は知ってるから でも、結局…師匠の横顔を見て何も気付かない程俺はお気楽じゃなかった まぁ最終的には本気の拳骨を一発食らった挙げ句に頬をつねられたがそれでも俺は師匠を見てるから だから今は師匠の一番を優先するんだ 野口に逢いたい 師匠の願いを叶える為に
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