文久三年【春之壱】

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    「貴方、私達を知らないんですか?」 男はキョトンとした顔で自分の顔を指差す。 「知っていながら聞く私は余程嫌な人間なんだろうな」 段々と苛立ち始める。 「いえ、そうは言ってませんよ、ただ珍しいな、と」 男は朗らかに笑うが回りの男達は訝しげに私を見ている。 「早くしろ!!私は急いでいるんだ!!」 「おや、それは失礼しました私は 浪士組の沖田 総司と、申します…貴方は?」 クラリと目眩すら覚えた。 本物…壬生、浪士組 新撰組になる前…京都守護職御預かりすらまだ… 「ははっ…何これ…ふざけてんの?冗談じゃない…やってらんないよ」 気を抜いた一瞬に抜刀された。 「答えないなら此処で死んで貰う他ありませんね」 「死ぬ?もう死んでるよ!!透が待ってるんだ邪魔するな!!」 持っていた木刀を構え直す。 「透?知りませんね、貴方その服装、異人ですか?」 「日本語喋ってんだろ、その耳飾りか?本庄 祿名乗ったから退け」 沖田総司を正面に構える。 手合わせなんてした事無いが、神速の天才剣士と名を遺しているなら此処でぶつかるのは利口じゃない事くらい分かっている… しかし、そう簡単に逃がしてくれる程、彼等は甘くは無い。 木刀なんて構えたって何の意味も無いが真剣を抜く事だけは出来ない。
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