文久三年【冬之肆】

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    私から離れようと手足をぐいぐいと動かす本庄の背を抱えて抱き締めた 苦しくて 苦しくて 苦しくて 早く死んでしまいたかった きっと… 離れたって 生き延びたって どんなに歳をとったって 本庄が私の中から居なくなるなんて事は無いから 忘れてしまう位なら辛いままでいいと思えたから でも、心の何処かで願ってた 本庄に逢いたい 私を見付けて欲しい もう一度、笑顔が見たい 願いながら水戸で頭を下げた 水戸で口にした薄っぺらな贖罪と忠義の言葉に意味は無かった 本当にしなければならなかったのは… 本庄に人を殺させた事と傷付くと分かっていながら守れなかった事への贖罪 誰にどんな言葉でへつらおうとも全てが本庄への恩義と忠義 水戸がどんな所かよく分かっている、だからこそ上辺だけの綺麗な言葉を並べて出来るだけ本庄のいる新撰組を水戸にとって穏和な物にしたかった 自分の身分はよく分かっていた、でも、どうしてもほんの僅かでも良いから何とかしたかった 自分がどれだけ利用されたって構わない、本庄の味わった痛みはこんなものじゃない それだけの決意があったのに 本庄の姿を見て嬉しくてそんな感情を抱く自分が弱くて悔しかった 手を振り上げた私を見る本庄の瞳が余りに真っ直ぐで何故自分が此処に居るのか分からなくなった 貴方の居場所は此処ではない 本庄の瞳がそう言っていた 「私は…此処に居ていいのか?」
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