文久三年【冬之伍】

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    「行きましょうか」 「何処へだよ」 「分かりませんか?」 「……その前に本庄、てめえが何者教えろ、てめえがこれから行くのはやんごと無き世界の御方の処なのは分かる、でもてめえが何者が分からねぇ」 土方さんは腕を組み私を睨む。 土方さんにしては随分と我慢した方だと思った。 実際にこの男、滅茶苦茶気が短い。 「本当に分かりませんか?私と徳川将軍家の関係が」 「………分からねぇ」 「狗と飼い主ですよ」 「違うな」 「違いませんよ」 「違う、てめえは飼い主に懐いてねぇ」 「この世の狗、全てが飼い主に懐くと思って貰っちゃ困ります…徳川はただ私の鎖を握ってるに過ぎない、狗の飼い主が徳川でも我が一族の主人は上杉家です、ほんの一時鎖に触れた程度で大きな顔をされても威厳も箔もない」 本庄家も中条家もその他の家臣達も皆、上杉家に仕えた事を誇りに思っている。 徳川に頭を垂れてそれが何だ。 そこに私達の矜恃など有りはしない。 「それがお前の意志か?」 「えぇ、大切なものの為に土下座をする事も刀を差し出す事も私達の矜恃を汚す事にはならない、守れるならば私達は狗にだってなれる」 「………」 儀も誠も何もかもが 大切なもの達の為になるならば 私達は何物にもなろう
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