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「資春と言ったな?」
雪資は納刀すると私の前に膝を着いた
「はい」
「心臓…治らないのか?」
「治りません」
「両親は…」
「私が生まれてすぐ死にました」
「そうか…お前が最期か?」
「はい、分家も全て途絶え、中条は宗家の私が最期です…本庄は分家、三浦党が未だ顕在し秩父におります」
私は雪資を見れなかった
中条が途絶えるのは私の所為だ
私が自分の死が恐ろしい余りに外へ出なかった
結婚だって出来ただろうし、剣術の師範同士でもそういう話はあった
そりゃ、中条宗家への婿入り何て界隈では軽く出世扱いされる程
別に誰が中条の名前で出世を企もうとどうだってよかった
その話が無くなったのは私にその気が無かったからだ
もっと簡単に言えば弟子達以上に大切に思える人間が界隈に居なかっただけ
「中条は消えるんだな」
「申し訳ございません」
「お前が謝る事は無い…ただ、私はまだ妻も子もいない、でも百五十年先お前が存在し確かに私とお前の血は繋がっている……初めて逢った赤の他人も同然の筈のお前が生きれないのが何故か悲しい…父上の死も当然と受け入れられたのに……何故か私はお前に生きて欲しいと思ってしまった」
「………一時の情に流されてはなりません、私は二度と雪資様とお会いする事は無いでしょう…私の事はお忘れ下さい」
私は江戸に留まるつもりは無い、透と約束したんだ
必ず京に帰ると
それに私には新撰組としてやらなければならない事もある
歴史を知っているからこそ、触れていい事と見過ごす事を判断できる
卑怯かもしれない、秩序や理を壊すのかもしれない
それでも生きて欲しいと願ってしまったから
此処まで来てしまったから
もう戻れない
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