文久三年【冬之伍】

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    向かって左右の違い順で最奥から徳川十本刀は席次が決まっている 一槍、千切の越後斎藤 二砲、三つ足烏の雑賀鈴木 三叉、真田六連銭の信濃真田 四騎、桐に鳳凰の丹波川勝 五壁、二つ引両の播磨赤松 六孝、五つ竜胆車の伏見久我 七凶、田村車前草の仙台田村 八薙、三つ盛木瓜の越前朝倉 九短、九曜の奥羽富田 終刀、片喰の越後中条 それはかつて唯、一つと定めた主と国の為に刄を交え栄華を極め戦乱の世に消えた武将達でもあった 誰も彼も平和を願い戦った 天下は一つとなり数多の犠牲と引き替えに平和は訪れた 数えきれない程の大切なものを喪った 堪えられない程の痛みを知った それでも、訪れた平和が続くならばと歯を食い縛ってきた しかし、今一度、日の本が別とうとしている 我等の望んだ天下はこんなものでは無かった 統一とは何と儚きものか 何故、平和が一つではない ならば、我等も今一度、主と国の為…この血に刻まれし矜恃が霞まぬ証に業を手に取ろう そして、その為ならば我等は十の刄と為りて一閃を凪ぐ 狗と呼ばれようと 反逆と呼ばれようと 落武者と呼ばれようと 構いはしない ただ、我等は主と国の礎である民の為に在る 「お前が誠の平和を願うならば中条は菊一文字をもう一振りお前に授けよう」 「助けて、くれ…戦など間違っている、民が苦しむ道理は無い……頼む、中条資春」 「承った」
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