文久三年【冬之伍】

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     別に彼等の考え方に何一つ難しくややこしい物は無い 水戸学は正統な本来の日本の在り方だと言えば聞こえは善く別段間違った事は無い だが、時代の流れはそれを許してくれる程緩くは無い 今上天皇は酷く海外を恐れ嫌い水戸学を推した為に現状に至った訳で、その辺は中条と同じ公卿である伏見久我と手を組まなければならない 水戸は丹波川勝や仙台田村に頼る他無い、川勝が動けば否応なしに元は織田家家臣である荒木家や豊臣家家臣須賀家の尾張藩の幕閣も賛同するに違いない 田村家とて仙台六十三万石伊達家に仕え、元は坂上家は征夷大将軍坂上田村麿を祖とする列記とした名家で平成でも独眼竜と名を遺す伊達者の誇りは強い 徳川に従うのも伊達家の為であって田村家は徳川家への直接の因縁もある為に七手の凶の字を賜った 徳川も無闇に個性派ばかりを集めた訳ではない どの家をとっても武力だけでは無い物を持っていて必ず役に立つ、それなのに私達の知る歴史とは余りに無惨だった 何処を間違えた? 何が足りなかった? 変わりつつある歴史に私の知識程度で飲み込まれずに済むのか? 本当は意味が無いんじゃないのか? 何をどう足掻いたって幕府は潰され私は死に透を一人新撰組と共に血塗れにさせるんじゃないのか? 何で…何で…こんな事を考えてしまうのに幕府を裏切れないんだ… 水戸に行けば間違い無く助かるのに、どうして受け入れられない 私は布団の中で蹲り頭を抱えた 分かっているんだ本当は 父さんが平成の世界になってもまだ私に中条の名前を付けた意味 資春 上杉謙信公に仕え血染めの感状と梅波斎の号を賜った中条家の武将、中条藤資の曾孫の名 その名を私に付けた父さんはもしかしたら私の未来を知っていたのかもしれない 父さんも爺ちゃんも母さんや婆ちゃんに自分が中条家だとははっきり言わなかった、直血の嫡子だけに伝わる中条の家名 それをずっとずっと守ってきたんだ 何があっても守ってきたんだ 余りにも私には重過ぎて 怖くて怖くて仕方が無くて それでも、今一番大切な者達を守れるたった一つの力だから、せめて誇りを汚しちゃいけないんだ 絶対に汚しちゃいけないんだ
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