文久三年【冬之伍】

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    そして、この少年はそれをよく解っている 傍から見ればただ我等の武力や反骨を恐れ怯えているように見られるかもしれない だが、実際は畏怖と対等に在ろうとする自らの叱咤 我等は別に徳川に跪かせよう等とは思っていない、我等は我等の守るべきもの達を守る為に徳川に力添えを約束したに過ぎない…勿論、その過程で中条や斎藤、田村や真田はさせられた事実を否めない 久我に到っては見事な転身裁きで孝の字をよく賜ったと思う…が、 ただ、我等は一人の武将として武士として侍として力の有る者として対等を望んでいる 土方さんと手合わせしながらよそ事を考えた上に後ろからの突き刺す様な視線に耐えられず、鮮やかに胴を討ち抜かれた バシッ!! ドンッ!! 「…っつぅ…」 「中条!!」 「!?」 「!?」 ダンッ!! カァァァン!!!! 「…ぁ……」 反射だった 土方さんに討ち抜かれた瞬間に何故か真剣を思い浮べてしまった 私の呼ばれ慣れない名前を呼んで駆け寄る子供が意識に覚えが無く咄嗟に倒れた衝撃とショックが相まって木刀で一薙にしようとした さすがは越前朝倉、家茂が一歩目を踏み出した時には大刀を抜き私が薙払うより先に家茂の目の前に大刀を突き立てていた 「馬鹿野郎!!!!貴様死にたいのか!!手合わせの最中に丸腰で駆け寄る奴があるか!!!!」 此処へ来て初めて聞いた声は、この小柄な身体の何処から出ているのか分からない程の声量で家茂はしりもちを突いて私にぶつかるまで下がった 「あ、あっご、ごめん、なさい」 越前朝倉、小柄とは言え見たとこ私より少し年上で顔立ちが端正な分、怒った顔の迫力は半端無い 「家茂、怪我は無いか?」 「は、はい!!!!」 「悪かったな、私が集中していなかったからだ…だが、二度と私が倒れても近付くな、いいな」 「………」 「あ…おい!!待て!!」 家茂は私の言葉に絶望がしっくりくる表情をしたと思ったら返事もせずに走って道場から出て行き、朝倉は慌てて追い掛けた 「てめえも大概お人好しだな」 「初めて言われましたよ」
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