文久三年【春之壱】

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    本当は木刀を向ける事だってしたくない。 でも、このままじゃ埒が空かない。 左へ受け流す瞬間、右足を高く振り上げ上体の動きに乗せて沖田総司の脇腹を蹴り抜く。 後は兎に角走る。 こんなの相手にしていられない。 「待てぇ!!!」 「追えぇぇぇぇぇぇ!!」 うわっ…全員で追っ掛けてくる。 私は振り返らずに叫びまくる。 「追ってきてもいいけど刀しまえ!!」 「ふざけるな止まれ!!」 「人探ししてんのに止まれるか!!」 「戯けた事を吐かすな!!」 「別に逃げてる訳じゃない!!」 「なら止まれ!!」 「馬鹿か!!人探してるって言ってんだろ!!」 どれくらい走ったか分からないが途中から叫ぶのがしんどくて完全無視で走った。 気付いたら連中はいなくて少しホッとしたが休んでる余裕は無い。 透が見付からない。 もう夜明けだ… 既に先程の街中からはかなり離れてしまっていてかなり広い農道の様な場所まで来ていた 1キロ位だろうか結構距離はあるが小さな茶屋の様な建物とその先に橋が見えた。 空が紫苑と白橙の入り混じる明け方なせいか店は閉まっている様で人気は無い。 体力はさすがに限界を迎えていた。 喉は焼けそうで水を飲みたいが、生憎そんな物持ってはいない。 茶屋の店先の長椅子に座って下を向いた時だった。 信じられない量の汗が地面に染みを作っていた。 「動くな」
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