文久三年【冬之伍】

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    ニヤニヤと土方さんが私を見ているのは、かなり…いや、相当頭にくる 言いたい事が見透かされてる分、言い返す事はできない 尚更、腹立たしい 「土方さん、もう一本お願いします」 「はっ!!やなこった、どうせ仕返しついでだろ」 土方さんは腕を組むと見え見えだと言わんばかりに目を眇めた 「ついでじゃありませんよ、仕返しがしたいだけです、私、土方さんが嫌いですから」 「てめっ!!ぶん殴るぞ!!」 激怒した土方さんはあっさりと組んだ腕を解き木刀を私に突き付けた 私がほくそ笑んでいるとも気付かずに… 十分もするかしないかで土方さんは 「二度とてめえの相手なんかしねぇ!!!!」 そう、怒鳴って道場を後にした 私は一人残った道場の真ん中に正座して目を閉じる 私が倒れても二度と近付くな 私が倒れる 私が死んだ場所 其処に意味は無い 其処に未来は無い 死は死を招く 死に近づけば更なる死がある 私が死んだ場所には 私を殺した現実がある 近付くな 絶対に近付いてはいけない お前の刀が一振り折れたのだ 家茂、その刀は棄て置け 囚われるな 死は死を喚ぶ お前がまだ未来を諦めていないなら 前を見ろ 振り返るな 視線は下げるな 歩みを止めるな 次の刀を抜け
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