文久三年【冬之陸】

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    「家茂、お前が諦めたらこの世は終わる、だが…お前がどんなに傷付いても前を向くなら十本刀が道を拓いてやる、その為に私達はいるんだ……家茂決めろ、もう迷っている時間は無い」 「私は…私は十四代徳川宗家家督徳川家茂だ……私がこの国の民を守る!!私がこの国の矜恃を守る!!私が楯だ!!お前が刀だ!!……そして私は、十本刀の鞘となる」 たった今、歴史は塗り変わった 徳川幕府は攘夷を止め開国による新たな一歩を目指した 御三家水戸徳川の登城禁止は解かれ漸く水戸藩主との確執の紐に手が掛けられた 水戸藩主徳川慶篤の謁見には後見人にして徳川慶篤の実の弟、次代将軍一橋慶喜が同席する事になった その晩、徳川家茂の元に集まっていた十本刀達の所に家老が駆け込んできた 「上様!!如何なされたと言うのですか!!何故水戸藩主徳川公が謁見に参るのですか!!あれは登城を禁じられていた筈でございましょう!?」 男は息を切らして入ってくるなりそのまま喋りだした 「安藤信民か?」 中条資春は伏し目を滑らせる様に男を射貫くと問い掛けた 「な、何故私の名前を…」 「黙れ、質問にだけ答えろ…お前には父親の後を継いだ責任は無いのか?」 「な!?わ、私は!!」 「お前の父親は自分の信じるものを貫いた!!お前にはそれを守ろうと言う責任は無いのか!!!!」 老中安藤信民 元老中安藤信正の長男 安政の大獄をし桜田門外の変で殺害された大老井伊直弼の代わりに老中久世広周と共に公武合体を成し遂げようとした老中 しかし、大老井伊直弼と同じ様に坂下門外の変で襲撃され背中を斬られ重傷を負い、背中を斬られる等武士の風上にも置けないと隠居を余儀なくされ、長男である信民が後を継いでいた 安藤信民は恐れていた 井伊家や父親の二の舞になり自分も同じ様に斬られるのでは無いかと 斬られたくない 隠居も揚屋も溜間詰も嫌だ 況してや井伊家の様になんてなりたくない 怖い
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