文久三年【春之壱】

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    「両手、挙げ…」 関西弁で苦無を私の首に宛てる。 やられた…逃げられない。 「名前…」 「本庄 祿」 「何者や?」 「……新……越後の者だ」 「何しに来たん?」 「分からない…気付いたら此処にいて……お願いだからまだ殺さないでくれ」 「お前次第や、動けば殺す」 「木刀と真剣以外何も持ってない…全て荷物は置いて行くから、行かせてくれ」 「あかん、直に沖田さんが来よる」 彼の直には本当に直にだった。 馬の蹄独特の音を軽快に鳴らして彼ともう一人男が現れた。 大分小柄で見たとこ透と同じか年下に見える。 「先程はどうも本庄さん」 「こちらこそ沖田さん」 「これが総司から木刀だけで逃げ切った女?」 「はい、油断すると痛い目に遭いますよ永倉さん」 もう一人の男は永倉新八…新道無念流免許皆伝。 逃げるのは諦めたが余計な動きは一瞬で首と胴体を離す要因だ。 だが、行かなきゃいけない。 「お願いします…刀も木刀も何もかも置いていくから透を追わせて下さい」 正面に立つ二人は私を見つめている。 「早く行かなきゃあの子は一人なんです…お願いします」 両手を挙げたまま頭を限界まで下げる。
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