文久三年【冬之陸】

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    普段慣れているとは言え片腕で着付けるとどうしても細紐や帯が弛くなり片方に合わせが寄ってしまうのに 久々のきちんとした着付けは少し息苦しいしっかりとしたものだった 「…ありがとうございます」 「貴方様は女子です、ですが武士でございます…ですから私は殿方にする召し方をしました…よく、此処まで来て頂きました、城の者は皆十本刀様を信じております…どうか、どうか御助け下さいませ、でも、もし貴方様が御辛いならお逃げ下さいませ、貴方様は女子です」 片瀬の言わんとする事が漸く分かった 片瀬の身分は腰元の中でもかなり高い身分なのだろう そうでなければ十本刀と対面する事は許されない 況してや、一度も会った事の無い中条資春を女だとはまず知る筈が無い 「片瀬と申されたな?御心使い痛み入る…だが、私だけが辛いんじゃない、貴方も辛い筈だ…それでも貴方は逃げずに私の所まで来てくれた、貴方がこんなにも震えながら闘っているのに私が逃げる訳にはいかない」 着付けている最中、片瀬の手はずっと小さく震えていた 気丈にも表情を崩さずに 城の者は皆知っているのだ 今日、この国が大きく変わる事を
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