文久三年【冬之陸】

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    中条資春はゆったりとした足取りで朝露に冷える廊下を歩く 「善いのか?」 「…仕方の…無い事…かと」 背後から掛けられた声に中条資春は振り返らない 「お前は関係無いんだ、今ならまだ間に合う…水戸を落とす、いくら徳川宗家とは言え秩序や調律は難しくこの江戸も安泰とは言えなくなってくる、十本刀も表に出ざるを得ない、そうすればお前を待っている者も危ういぞ」 「このまま素知らぬ顔をして江戸を捨てれば、私は全てを喪うでしょう、それに私を待っているのは私の一番弟子…純白の其の身に私の全てを一から染み込ませ鍛え上げた次期総師範…透はそんなに弱い子じゃありませんよ」 中条雪資は漸く振り返った中条資春の笑った顔に次の言葉を無くした 「………そうか」 「だから私は私の出来る限りの全てをやり尽くし京へ戻るんです」 中条資春そう言うと又前を向き静かに歩きだした 丁度、城の入り口の方が突然慌ただしくなる、誰かの登城を認められた様だった それからいくばくも無く家老達が駆け抜け 「水戸藩十代藩主徳川慶篤公が謁見に馳せ参じられた」 その言葉と共に城内はいよいよ戦々恐々と混沌に包まれ始めた
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