文久三年【冬之陸】

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    ジャキ!! バンッ!! ドスッ!! 田村時実が大刀と脇差しを引き抜くと襖の向こう側でズルズルと何かが畳に落ちた。 そして、それは開戦の鏑矢の代わりとなった。 朝倉高峯と川勝成雅は居合いの一手で互いの背後にある襖と障子を寸断し、中条資春と中条雪資は一瞬で地を這う様に振り返り一衝きに襖と障子を衝き破る。 「まさか、未だ生き残りが居たとはな…」 血切りをし納刀した朝倉高峯は見下す様に足元に転がる首を見る 「静原冠者、百年も姿を暗まし生き長らえていたか…所詮、忍…影が無ければ何も出来ぬ役立たずだな」 田村時実は鼻で笑い、正座のまま腕を組む。 幕末より百年前にも幕府と朝廷は尊王思想を巡り対立していた。 その当時、急進派公家が倒幕を企て、天皇直属の忍者である「静原冠者」が加わり幕府側には「八瀬童子」がつき壮絶な争いを繰り広げたとされていた。 忍者である彼等の生死など誰にも分かる筈は無く百年もの時は瞬く間に過ぎ、そして、又幕府対朝廷の今度は日本史上、最も大きな変革に姿を表した。 幕府対朝廷 徳川十本刀対静原冠者 「水戸藩主徳川慶篤、言い逃れが出来ぬ事、分かっておろうな?」川勝成雅が血切りをした刀の峰で転がる首を跳ね飛ばした。 「し、しずはらの、かんじゃ…よ、何を、何をしておる…は、早く、此奴等を始末せぬか…」 徳川慶篤は両手両膝を着きキョロキョロと辺りを伺うが幕府の人間以外の気配は伺えない。 「奴等の主は貴様ではない、奴等は既に主の下へ戻った」 中条雪資は納刀して徳川慶篤を見下ろす。 城内に侵入していた静原冠者達は誰一人残っている者は居らず、皆、主である孝明天皇の下へ戻っていた。
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