文久三年【冬之陸】

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    四方八方を十本刀に囲まれ徳川慶篤は遂に崩れた 「…何が悪い、我等は長きに渡り虐げられてきた…我等が一体何を違えたと言うのだ…」 徳川慶篤…幼い頃は気が弱く嫡子にも関わらず将軍家への道は直ぐに断たれ水戸の跡継ぎとして育てられた、にも関わらず斎昭の水戸学により偏り歪み切ったその意志はただ、ひたすらに水戸に注がれた。 「何をだと?それすら分からんか?」 田村時実は目を眇めて徳川慶篤を見下ろす。 「人としての道だな…優先すべき事を違えた、それは命を落とすに十分過ぎる程の過ちだ」 朝倉高峯は遮る様に徳川慶篤と徳川家茂の間に立つ。 「優先すべき事?私は天子を尊んだ、この世でただ唯一の血統を重んじた!!それの何が悪い!!」 「なら、天子は今すぐ崩御あそばせられる程に危ういか?…人の命は、皆平等に与えられたものだ、名誉も威厳も命より尊いものか?あの漆黒の艦隊を拒み続けて真っ先に傷つくのは誰だ?」 中条雪資は静かな冷たい声で徳川慶篤を侮蔑する。 「民は天子の為にあるものだ!!傷ついたからなんだ!!その傷があったからこそ天子は御健在なのだ、天子が為と思えば傷を厭うのは逆賊ぞ!!」 「だから水戸は嫌われ者なんだよ」
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