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朝倉高峯の溜め息と共に吐き出された言葉は最期となった。
「この……」
パァァン
ズブッ……
「あ、が……」
空気を割るような音がかなり遠くで谺し、嫌な音が同時に室内で立つ。
「…所詮、貴様はこの程度の者だったのだ徳川慶篤」
ズル…
ドサッ
徳川慶篤は何かを言い返そうとしたが突然、十本刀達の足元から下座へ逃げ懐に手を忍ばせたのだ。
そして、上座を振り返った瞬間発砲音が響き、徳川慶篤の喉から切っ先が突き出てきた。
虫の息となり、残り火を一気に焼き尽くす様に徳川慶篤の手が畳を掻き毟る。
口からは血泡を吹き変な音が聞こえ、目だけがギョロリと徳川家茂と一橋慶喜と中条資春を順に捉えた。
「…も、う…何もかも…遅い」
「天誅」
ブツリ
ゴロッ
大太刀四尺五寸菊一文字八千流
徳川慶篤を誅する。
中条資春と中条雪資が納刀すると、田村時実も血切りをして納刀した。
それは文久三年師走が終わる二日前の出来事だった。
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