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安藤信民は立ち上がると部屋を後にした。
「お前は何を考えてる?」
川勝成雅は実兄に面差しの似た一橋慶喜を見るが何の感情も無く無表情に徳川慶篤の首の切り口を見ている。
はっきり言えば室内で最も気味の悪い存在だ。
「何も」
「実兄が死んだのに?」
「とうに縁は切れている」
「ただそれだけか?」
「其奴は徳川とも在ろうに上様を裏切り国を乱した、当然の粛正だ」
「末恐ろしい餓鬼だな」
「私もお前等と同じだ、好きで此処にいるんじゃない…家族と自由を奪われた、もう帰る場所は無い……」
一橋慶喜はこれ以上この場に用は無いと言わんばかりに立ち上がり足早に部屋を出た。
「あんま餓鬼を煽るな成雅」
「田村、お前にだけは言われたくない」
川勝成雅は鼻を鳴らすと一橋慶喜が開け放したままの障子の外を見た。
すると、田村時実は憤然と上座に向かって歩き部屋の突き当たりの嵌め殺しの障子枠を大刀で突き破った。
障子枠は円形で家紋の丸に三つ引きの様な形をしていて線の部分に和紙ははられておらず、未だ希少な硝子が嵌め込まれている。
「糞爺ぃ!!!!ぶった斬られたいのか!!!!!!」
「まだ生きとったか糞餓鬼!!」
「これか…」
中条雪資は最初に田村時実が座っていたすぐ後ろにある襖の小さな穴を溜め息混じりに呆れ見た
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