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その後の徳川家茂の行動は驚くべきものだった。
夜になると十本刀は全員召喚され徳川家茂の下に鎮座していた。
「資春、そちには本当に感謝している…私は漸く決断できた、きっと明日から大変な事になるだろうが私は公武合体を成し遂げてみせる、そして…そちとの約束も守る…明日、欧米の公使を呼んだ、何を話したいのか私には分からないが勝を同席させるから善い様にして貰うといい」
全員が言葉無く唖然としていた。
文久三年と言えば薩摩藩士がイギリス人を殺傷する生麦事件が起き、報復にイギリス艦隊に砲撃され薩英戦争が起きたばかりの年だ。
その年の瀬にこんな緊迫した関係のまま一個人の為だけに欧米と言えば四国連合艦隊を呼び付けるなど気違いも甚だしい。
中条資春とて、年明けは覚悟していたのだ。
「おい、そんな勝手な真似許されると思っているのか?今日何があったかお前分かって無いのか?」
顔を歪ませ朝倉高峯は声を震わせた。
「分かっている、分かっているから急いだのだ…今日、慶篤殿が亡くなる事くらい私だって理解していた、だからこそ、この国が混乱する前に資春を公使と逢わせなければならないと思った、資春には帰らなければならない場所がある…帰らなければならない場所があると言う事は待っている者がいると言う事だ…早く、せめて出来る限り早く帰してやらねば、約束を守った事にはならん……いや、もう私は資春との約束を破ってしまっている、だから償いだな、これは」
徳川家茂は昨夜の中条資春への告白がどれ程彼女に絶望させたのか分かっていた、それでも今日、帝鑑間に同席してくれた。
宣言通り中条資春から暖かみのある態度や言葉は微塵も伺えない、でも…
言葉や態度が全てではないのだ、裏切らない事こそが徳川将軍家と徳川十本刀を繋ぐ唯一無二の証。
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