文久三年【冬之七】

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    相変わらず顔色の悪い面してやがる。 「何の用だ」 「明日、私と共に外国人と会って頂きます」 ほんの僅かだった、本庄の表情が陰った。 「外国人?何の為に?一体何処の?」 俺の人生に外国人と関わる事は皆無と思っていたし、今も思っている。 「私が、此処へ来た本当の目的の為に…薩摩藩を打ち破ったイギリスを含むオランダ、フランス、アメリカの四国艦隊連合軍の公使達です」 「待て、お前何言ってやがる…四国艦隊連合軍だと?攘夷の真っ只中てめえの都合で火に油注ぐつもりか?」 どうかしてる、一個人が国を相手にするなんて…そんなの馬鹿げている。 「はい、私にはもう時間がないのです、迷えば喪う事を分かっていながら時間を無駄には出来ません。家茂は私の意志を尊重してくれた、ならば私が止まる必要はありません」 本庄、一体どうしたんだ? お前、一体何をそんなに急いているんだ? こんな大事を起こして将軍まで動かして我が儘が叶うのに… なんで、お前泣いてんだ? 「本庄何があった?どうした?」 こいつをそこいらの女と同じに扱おう物なら、腰の名刀で寸断される気がした。 でも、泣いている。 本庄が、泣いているんだ。 優しくなんてこいつにはしていいのかよく分からねぇ、だからこの距離は埋めたりしない… 「許して、下さい…これが、私の精一杯なんです」 許す? 精一杯? 俺には全く理解が出来ない。 俺は本庄を責めた覚えはない。 本庄に何かを求めた覚えもない。 なのに、目の前で泣きながら頭を下げる本庄にいい知れぬ恐怖が沸き起こる。 俺はきっと、本庄の涙の意味を知っている。
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