文久三年【冬之七】

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    それから本庄が泣き止む事は無かった。 俺に問い質す事は不可能で、やっと顔を上げた本庄に俺は休めとしか言えなかった。 ひどく疲れた顔は、まるで明日など来ないとさえ思わせるものだった。 行灯の火が消えるまで、俺は本庄の涙の跡を見ていた。 翌朝、正装して家老の案内で将軍の部屋へ行くと、徳川十本刀は本庄を除き全員控え、一昨日は居なかった男が一人十本刀から列を外して座っている。 到底落ち着ける様な雰囲気ではなく、どうしても視線は本庄を探してしまう。 待てど暮らせど本庄は現れず、とうとうその時は来てしまった。 「各国の公使殿がお見えになられました、お通し致します」 家老に次いで入ってきたのは俺と歳の変わらない男が二人と四十近い男と老人だったが、どいつも色が白く体格がいい。 生まれて初めて外国人を間近で見た。 そして、その四人に一人ずつ小姓が付き更に一人ずつ通訳が付いていた。 「今日はご足労頂き誠に感謝を申し上げる」 将軍の言葉を各国の通訳が公使達に伝えると、各々が頭を下げた。 「今日、皆様に来て頂いたのは、私の大切な仲間の話を聞いて頂きたかったからです」 将軍は話を切り公使達の後ろを手で差すと、この広い部屋の一番下座に本庄は初めて会った時と同じ服装で正座していた。
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