文久三年【冬之七】

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    「Please」 公使達が携帯電話の取り合いを始める中、十本刀の隣に座る男が何か言いながら手を差し出した。 公使達は順に回すと男に携帯電話を渡し、通訳に何かを口々に伝えている。 「貴方がこの時代の人間では無い事は理解せざるを得ない現物です。貴方の望みは何ですか?」 「私の仲間を…助けて、下さい」 「助けるとは、どの様な状態からですか?私達に何を求めますか?」 通訳は本庄の言葉と公使達の言葉を瞬時に訳して四人の答えを要約し一人が本庄と会話している。 「私の仲間は病に侵されています、後二年で亡くなります…彼は私の為に沢山の事をしてくれました、私の為に泣いてくれた事もありました…彼は今、この瞬間の日本に無くてはならない存在です…彼を助けて下さい…彼は結核に、侵されています、お願いします…助けて下さい」 本庄は喉を詰まらせながら必死に言葉にした。 江戸に来た本当の目的の為に… 「本庄…まさか、結核…総司の……事なの、か?」 最近総司が変な咳をずっとしている、何処かで聞き覚えのあるような独特の咳を。 「土方さん、すみません…今の日本に沖田さんを救う医学は存在しません、彼は間違いなく亡くなります…私の力では助ける事が出来ません」 総司が…結核 母上と…姉上の様に 死ぬ 「私も心臓を患い余命は二年です、利き手も失い隻眼となったこの体はこの国から出る事は叶いません、この体はこの国でやらなければならない事があります…ですから、情報は提供しますが着いて行く事は出来ません」 本庄は顔を上げて真っ直ぐ公使達を見た。
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