文久三年【冬之七】

8/14
前へ
/554ページ
次へ
    「貴方の望みは叶えられません、私達の国でも結核とは不治に等しく最も残酷な病です。ですが、完治に可能性が薄くとも、抑制する事は可能です…女性である貴方が隻眼隻腕で刀を奮い命の期限を知りながら自らを顧みず友を想う心が私を動かしたのです…情報は結構です、未来とは知った瞬間から変わる物です、それを情報と呼ぶには余りにも危険です…ですから、私は貴方のお話に対しての価値をお支払い致します」 そう、通訳したのはオランダ公使の通訳だった。 「ありがとうございます、本当にありがとうございます」 本庄はまるで自分の事の様に両手を着いて頭を下げた。 「彼を一度医師に診せる事を勧めますが、江戸へは?」 通訳も又、安心した様な顔で話す。 「無理です、彼を京から出す事は出来ません…末期症状が後半年で発症します、今安静にしなければ病状は悪化します」 本庄は不思議な事を言った。 後半年で末期だと… 「それは、貴方が未来から持ってきた情報に基づく根拠あるものですか?」 「いかにも、年明けから半年後に彼は日本史上に残るとても大きな事件に関わり、末期症状が発症します…その前に何とか抑えたいのです、彼はその事件に大きく貢献し、それが彼にとっての今後に繋がるからです」 初めて聞いた身近な人間の未来。 本庄はこの日本に生きる中で偶然にもこの時代の俺達と出会い、沖田総司と言う人間の生涯を記憶していてくれた。 もし、あの夜、本庄達を捕らえたのが新撰組ではなかったら? もし、本庄が後一年遅く俺達の前に現れていたら? もし、本庄が未来から来ていなかったら? 有り得ない程の奇跡を抱えて本庄は俺達の前に堕ちてきた。 家族も仲間も身体も命も何もかも失って、それでも、まだ諦めない強さがあって…何故、本庄だったのだろうか。 もっと他にどうでもいい奴なんて居た筈だ。 なんで、本庄だったんだ…
/554ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5137人が本棚に入れています
本棚に追加