文久三年【冬之七】

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    オランダの公使が明日船から結核に効く薬を持ってきてくれると言い、話は全てまとまったようだった。 他の公使達はオランダの公使の手前、何も言えずただ黙っていたが、突然水を差す様にそいつは喋りだした。 「実に興味深い話だ、半年後に一体何があるのか話して貰えるかな?」 「勝海舟、私はお前と話す為に此処に居る訳ではない」 「貴方は自分で日本史上に残る大事件と言ったんだ、それを黙認する事は出来ない」 勝と言う男は確か軍艦奉行で神戸港を拓いたと言う英邁で剣の腕も確か。 「黙認するかしないかはその未来を知る私が決める、それとも…余所の狗じゃ信用には足りませぬか?」 本庄はただ勝を見ていた。 睨んだ訳ではない。 視線を向けたに過ぎないのに一瞬で息が詰まる程の緊張が室内に張り巡る。 「勝、資春を疑う事は私が許さない…もう退け」 将軍の言葉に勝は頭を一度下げて黙った。 本庄は間違いなく勝を斬ろうとした。 胸騒ぎが収まらないまま公使達は部屋を後にし、本庄は将軍に向き直り一礼し出て行ってしまった。 徳川十本刀はそれぞれ部屋を出て俺は迷わず将軍の前に正座した。 「ありがとうございます、この機会後生忘れはしません」 「よい、私にでは無く資春に礼を言ってやれ…私は公使達を呼んだだけ、総司と言う人間を救ったのは資春だ…仲間を大切にするがよい」 「有り難き御言葉感謝致しまして候也」 将軍が部屋を出て、俺は足早に自室へ向かった。
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