平成十一年【春】

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    地元では浜裏と呼ばれる地区でその名に由来するように線路を挟んだ反対は浜だった。 細い道に連なる家はどれも大きく軒先に修理中のボートがある家も珍しくない。 昔からの漁村だ。 浜裏の道から村中の道を渡って国道まで繋がる細い寺小路に入る。 子供が二人両手を広げれば道が塞げる程の狭さを村人達は車ですれ違うのだから神業と呼ぶべきだろう。 長い寺小路の途中に大きな寺が見え、その門を潜る。 道場は昔からこの場所にあり、後から隣に寺が建てられた。 稽古は夜七時から始まる。 その前に簡単に床や防具などの掃除を済ませ十分前から正座で待つ。 「お願いします!!」 大きな声が響き十七人の生徒が入ってきた。 高校一年から三年までで 男十二人 女五人 他の道場からすれば多い部類だ。 生徒はそれぞれ準備を終えると、まず床を完璧に雑巾掛けし、それから座禅を組んで素振りと始める。 「師範!見てもらえますか?」 「祿さん私もお願いします」 「師匠、型の見本お願いします」 皆それぞれ私の事を好きに呼んでいるし強要は一切していない。 寧ろ私より四歳も五歳も先輩にそんな事は言えない。 夜九時半に稽古を止めて皆で帰る。
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