文久三年【春之壱】

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    其処まで聞くと男は牢屋を出て行った。 「もう少ししたら本庄さん達の処分も決まりますから」 ニコリと笑って沖田総司は他の二人と牢屋を出て、 「嫌味かよ…腹黒そうな奴」 言ってからしまったと思った。 何処で聞かれてるか分からないのに下手な事は言えない。 「…ん…っう…」 壁の向こう側から声がした。 「透!!透!!!!」 「師匠?…師匠!!!!」 無事な上に隣とは運がいい。 「怪我は無いか?」 「平気、師匠は!?」 「私も無傷だよ、透此処が何処で今が何か分かるか?」 「え?わかんねぇ…」 「透、よく聞け…今から私が話す事は全て事実だ」 「…うん」 「此処は京都の壬生、壬生浪士組の屯所だ…今は文久三年だろう」 「何それ…京都?なんで?文久って何?」 「分からない、文久は年号だ百五十年前…くらいかな」 「…意味わかんねぇし」 「お前が分かんなくても現実はこうなんだよ…現状は最悪だこのままじゃ殺される」 「は?誰に?」 「壬生浪士組」 「マジで言ってんの師匠」 「ちょーマジ」 「はぁ…訳分かんねぇよ」 「私だって泣きたい気分だ…だけど死ぬ訳にはいかないし、本当は壬生浪士組に殺されなくて済む筈なんだ」
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