文久三年【冬之七】

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    「本庄…俺は何も持ってねぇ、俺に何がしてやれるかも分かんねぇ…でも、おめえが望むなら俺はやれるだけの事はやる…本庄、何が欲しい?」 本庄は泣きながら驚いた様に俺を見た。 嗚咽を漏らす口は何かを伝えようと動くけれど言葉にならず、必死に首を横に振った。 「それだけは受け入れられない…俺とおめえは因縁の様な物から始まり俺はおめえを…認められなかった、本庄、俺はな無償の愛とか優しさなんて無ぇと思ってる…況してや俺とおめえじゃ、考えも付かねぇんだ…………本庄、頼む」 俺は本庄が嫌いだった。 喰えない面で全て見透かす様な何の感情も露にしない眼が嫌いだった。 でも、それが全部期限が付けられた自分の命で早阪や自分の大切なもんを守る為だと知った時、本庄を好きになる事は出来なかったが、それまで本庄を嫌っていたのと同じ分、自分が嫌いになった。 「私、土方さんが嫌いです…知勇があり永い命がある土方さんが羨ましくて憎い…でも、自分を犠牲にしてまで大切な人を想える土方さんの優しさに付け込む私はもっと嫌いです…私は土方さんが江戸に来る事を拒めない事を知っていて連れてきたんです……だから、土方さんが気負う必要は無いんです…」 俺と本庄は似ている。 だから、嫌いなんだ。 だから、裏切れないんだ。 「駄目だ」
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