文久三年【冬之七】

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    「大概貴方も強情ですね、土方さん…私がもし、自分でその右腕を折れなんて言ったらどうするんですか?」 「おめえが本当にそれを望むなら折ってやるよ」 そんな事位じゃ、俺のやってきた事が帳消しになる訳無い。 帳消しを望んでんじゃねぇんだ…証が欲しかった。 俺が本庄を傷付けた証を…あいつは何時だって最後には何でもない顔をして笑っていた…何でもない筈ねぇのに。 「だから、土方さん嫌いなんですよ……私は欲しいものなんて無い、それでもと言うなら約束を下さい…絶対にその誠を貫くと…それが出来ないなら…私にはもう何も望むものなんて有り得ない」 そして、おめえは又そうやって笑うんだ。 「やるよ…俺にゃそれしか持ち合わせが無ぇんだ…おめえが欲しいならくれてやる」 「有り難うございます…では、そろそろ失礼します」 本庄はいつの間にか泣き止み、今度こそ満面の笑みで部屋を出て行った。 「笑ってんじゃねぇよ馬鹿野郎…結局俺はおめえに何もしてやれてねぇじゃねぇか…畜生」 本庄の居なくなった部屋で一人呟きながら、きっと俺は自分が本庄に何を言われたって何を要求されたって…何も変わらない事を知っている。 勿論、本庄も知っているから何も要求しないんだ。 夜になると本庄は又俺の部屋に現れた。 「これから家茂に話を着け明日、薬を受け取り次第江戸を発ちます…準備をしておいて下さい」 「分かった」 本庄の言葉は本当に薬以外にこの江戸に目的は無いと言う事がはっきり理解できた。
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