文久三年【冬之七】

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    翌朝、昼近くに呼ばれて案内された部屋に入ると昨日のオランダ人と従者と通訳がいて小さな柳行李の様な籠を傍に置いていた。 本庄はオランダ人の向かいに座り俺を隣に座らせる。 「生憎、未だ特効薬というものが存在せず、原料しか持ち合わせておりませんが、煎じて飲めば効くはずです」 通訳はそう俺達に話すとオランダ人公使は籠を開いて見せてくれた。 「西洋人参…」 本庄を振り返ると信じられないと言わんばかりの顔でそう呟いた。 俺には薬の類の詳しい事はよく分からないが西洋人参と言うんだ唐渡りの高麗人参とは違うらしい。 「本当に、これを頂けるんですか?」 「はい」 「でも、これだけの量…」 「呼吸器系だけでなく心経にも効くとされています…貴方が助けたいと言う人がこの日本に必要であるのと同じで、貴方も又この日本に必要なんですよ中条さん」 通訳の男は静かに本庄を見ていて、その隣でオランダ人公使は朗らかな笑みを浮かべていた。 「結核は風邪ではありません。身体を暖め過ぎれば病状は悪化します、気を付けて下さい、その為の西洋人参です」 「ありがとうございます」 「ありがとうございます」 俺はオランダ人公使と通訳と隣で頭を下げる本庄に礼を言った。
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