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本庄さんと早阪君、土方さんが水戸へ発って二十日が過ぎたある日。
「総司、近藤さんが呼んでる」
永倉さんは息を切らして部屋へ来た。
「又何かありましたか?」
最近、長州藩士がやたらと京をうろつき隠れ居座りが増えてきた。
本庄さん達がいない間にも何度か討ち合いはあった。
「帰ってきた」
永倉さんの言葉に私は足を止めた。
帰ってきた
彼女達が、帰ってきた
「おいっ総司!!」
少し後ろで永倉さんが驚いた様に私を呼んでいる。
逸る心が私の足を更に先へと進め、募った想いは弾ける様な音を立てて障子を開け放った。
「総司!?」
「はぁ、はぁ、野口、さん…早阪君……良かった、間に合って、本当に良かった…」
彼が死ぬ為に水戸へ戻る事くらい始めから分かっていた…
だからこそ、良かった。
野口さんが生きて京に戻ってきてくれて本当に良かった。
でなければ、きっと本庄さんは泣いてしまう。
たとえ、早阪君が本庄さんの傍に居たとしても、きっと本庄さんは泣いてしまう。
本庄さんにとって野口さんが大切な存在なのは一目瞭然で、それは本庄さんが早阪君を想うものとは少し違っていた。
「只今、戻りました…ご迷惑をお掛けした事、真に申し訳ございません」
野口さんは正座したまま私に手を付いて謝ったけど別に謝って欲しかった訳じゃない…ただ皆が無事に帰って来てくれればそれで良かった。
「いえ…無事ならそれで、早阪君………本庄さんは?………近藤さん、土方さんは?」
私の問い掛けに室内は静まり返る。
真冬の廊下は凍り付く様に寒い、だけど全身を震えさせたのは悪寒だった。
手の平はじんわりと熱を孕み、首に小さく痛みが奔る。
「本庄さんと土方さんは何処ですか?」
「江戸」
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