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「とにかく今は二人とも休みなさい、長旅に心労で疲れているだろう」
近藤さんは二人を労る様に退室を促し、二人は素直に従った。
部屋には幹部が残り、自然と沈黙が室内を満たし誰も語ろうとはしない。
そんな中、彼は静かに部屋へ入ってきた。
「失礼します」
「山崎君、ご苦労だった」
山崎さんは入り口の傍、私の足元に正座し近藤さんの指示を待っている。
長い長い沈黙を破ったのは意外にも斎藤さんだった。
「局長、報告を」
滅多に口を利かない彼はただの口下手だと慣れれば分かる。
「山崎君、君の見てきたものを全て話してくれないか?」
「承知しました」
近藤さんが渋ったのはもし二人の身が危険に曝されていた時、自分を抑えるだけの自信がまだ無かったから…近藤さんは誰よりも土方さんを信頼している、土方さんを失ったら近藤さんはきっと近藤さんでは無くなってしまう。
だから、それに耐える準備をしていたんだ。
「水戸徳川が御公儀を裏切られ、尊王攘夷の意志を示しました、本庄は水戸藩十代藩主徳川慶篤に登城を命じ江戸城にて処罰を下すものと思われます、土方副長については多摩で確認が取れましたが本庄と共に江戸へ向かう旨については不明です」
山崎さんは淡々と事実を報告してくれた彼に私はある疑問を抱いた。
「何故、貴方は帰って来たんですか?山崎さん」
「総司!!」
山崎さんは本庄さんとの同行を命ぜられていた筈だ。
何故、彼は一人で帰ってきたのか?
近藤さんは私を制する様に呼んだけど、不安と怒りは納まらない。
「沖田さん、水戸と江戸は違います…俺が日本一の諜報の業を持っていたとしても、守らなあかん人の事を疑ったりしたら俺は何を信じればえんやろか?水戸は敵や、でも江戸は違う…御公儀は本庄や土方副長を傷付けたりする事はせぇへん必ず無事に帰して下さる…沖田さん、落ち着いて下さい、俺達は何の為にあの旗背負っとるんですか」
キィン!!
「総司!!!!止めろ!!」
河州の清光がたった一本の苦無に受け止められた。
「貴方に何が分かる」
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