元治元年【春之壱】

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    「でも、本庄は刀を知っとった…誰よりもな…そんで俺等を自分で選んだんや……本庄程の腕なら早阪連れて此処を出る位何の事も無いのに…それをせぇへんかった、自分で此処に居る事を選んだんや」 「でも、もし…」 「でも、もしも本庄は分かっていた筈や」 「何故わざわざ…」 「そんなん俺に聞くんは筋違いやな本庄に聞き…せやけど、この場所に連れてきたんは将軍や、将軍には将軍の意志や責任がある…せやから、もしもの時は本庄を預かる言うたんや……本庄には勿論この事は話した」 「話した?…なのに何故、本庄さんは早阪君を置いて土方さんを連れ江戸城へ行ってしまったんだ…」 「帰ってくる為やろ…期限は二十日、必ず本庄は副長と帰ってくる…早阪と約束しとった」 「約束、そう…ですか……山崎さん、すみません」 「…別に」 山崎さんは短く返すとそのまま部屋を出て行った。 バシッ ドサッ 「総司…もし、お前が今山崎君を傷付けていたなら、私はお前を斬らなきゃいけなかった」 乾いた、それでいて重たい音と近藤さんの声と共に私は後ろに倒れこんだ。 私のやった事は組長として幹部として部下を従える者としてあるまじき行為だと今頃になって気付いた。 「…すみません」 「総司、本庄君と歳は必ず無事に帰ってくる」 「…はい」 先程感じた不安や怒りは治まったものの、気付くと心中を新しい不安が満たしていた。 裏切った水戸徳川を江戸城で裁く道理は分かる、でも…其処に土方さんを連れて行く理由が解らない。 本庄さんの目的は別にあるんじゃないのだろうか… 真冬の静まる夜、私は少し本庄さんが恐ろしくなった。
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